スクラップブック
都庁前クリニックのサイトで、エッセイ「スクラップブック」を連載していました。
このタイトルからピンとくる方もいると思いますが、モダンジャズの評論などで知られるJ・Jこと植草甚一氏(1908-79)の「スクラップ・ブック」の薫陶を受けています。植草さんがジャンルや権威にとらわれず、あくまで自分の興味にのめり込んで思考を重ねていったように、読む人にも「生きる鼓動」が伝わってくるような文章を書いていきたいです。
植草さん自身の本は死後絶版になったものが多いですが、そのスタイルと営みは廃れることはありません。町を練り歩き、自分の興味に素直に従い自らを生み出していく姿勢(植草さんがジャズを聴き始めたのは50に近い歳からです)は、「自己疎外」が叫ばれる現代でこそ必要となるでしょう。
言葉はある枠組みの中で自分の優位性を示したり、誰かを蹴落とすためにあるのではなく、他者や芸術を受け入れる母体となって自己を豊かに育むためにある。その生成に向かう感性や思考の一途な運動こそが、真の意味で「哲学」なのだと思います。そしてエッセイという自由な形式はその運動を引き出し、散歩をするように色んな景色を眺めながら、驚きと発見と考察を繰り返して進んでいくのです。それは「生きる営み」そのものだと言えるかもしれません。
その軌跡が学問上の成果に劣るものではないこと、むしろ研究者にはない発想を輝かせていることは、植草さんの残した文章が一番よく示しています。
だから、ぼくはこう言いたい。
“論壇”や“争い”はもういい。もっと遠くまで歩いてゆきたい。
「ぼくたちにはエッセイが必要なんだ。」
森田“シカミミ”悠介
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