妻鹿日記(95)とんぼ
202006/16
妻しか(鹿)日記
登場人物: 私…鹿
第95回:鹿のぼやき その10
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キヨハラの執行猶予が明けた。かつての鹿のスター。
妻には信じられないという目をされたが、満了の日に出版された著書『薬物依存症』を購入して読んでみた。
それは薬物の治療と並行しておこなわれている、うつ病の闘病記でもあった。
前に進みたくても進めない、ただ悔いと痛みにさいなまれる日々を送る50代の姿は、どこか人間的な優しさも感じられた。
そこにはもう、黒光りするキヨハラはない。
告白によると、逮捕されるまでは強さというものを、長渕剛が『とんぼ』で演じた主人公のような生き方に求めてきたが、いまは自分の敗北と弱さを認めて、ひとに頼ることの必要性を理解したという。
依存症は治らない。でも、これからは薬物ではなく「人間」に依存するのだと。
このことは、べつに薬物をやっていてもいなくても、だれもが生きていくうえで持っていたほうがいい視点ではないか。
本にも書かれていたが、“人間”とは“ひとのあいだ”に生きるもの。一匹で飛ぶとんぼはいない。
息子との再会も果たし、許された時間で野球を教えているようなので、今度こそ「幸せのとんぼ」をつかまえてほしい。
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