妻鹿日記(70)トイレの神様
202003/24
妻しか(鹿)日記
登場人物:私…鹿
第70回:鹿のぼやき その3
* * *
乗り換え駅で途中下車し、大手スーパーに立ち寄りトイレットペーパーを買って帰った。
その足で、クリーニングに出したスーツを引き取りに行くと、ドアが開いてすぐ、
「あら! 幸せねえ」
と声をかけられた。
一瞬、ぽかんと佇んでしまったが、おばあちゃんの視線のさきをみて、合点がいく。
トイレットペーパーだ。
「みなさんね、運よく買えたひとは、ここに笑顔になって入ってくるのよ」
なるほど、そうかもしれない。この空の下に、おなじ顔をした人々が、たくさんいる。
「こうなると、いつも当たり前だったことが、嬉しく思えてくるものねえ」
鹿もまさか、紙切れに頬をゆるめる日が来ようとは、思わなかった。
きれいになったスーツを受け取り、辞去しようとすると、おばあちゃん、最後にまた一言。
「きょうはよく眠れるわねえ」
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