妻しか（鹿）日記

登場人物：私…鹿　妻…妻

第151回：妻としか着ない

＊　＊　＊

ある程度の年齢になったら良いものを着なさいと父鹿はよくいう。そして実際に鹿にお下がりをくれる。

社会人として、あるいはサラリーマンとして、その意味は徐々にわかってきたが、それとは別に必要性が増してきた。

年を重ねると、肌トラブルも多くなる。鹿は最近、自然と“良いもの”しか合わないようになってきた。

真夏の光にも負けなかった少年の肌は、いまや雨粒さえ弾き返す力もない。

すっかり敏感肌になってしまった表皮を傷つけないように、今日も鹿は“良いもの”を身につける。