妻鹿日記(132)おうち探し⑲「退去」
202012/23
妻しか(鹿)日記
登場人物: 私…鹿 妻…妻
第132回:妻としか住まない その21
* * *
内見からスタートしたおうち探しは、“引越し”で終わりではない。
それまで住んでいたアパートの契約を解除し、“退去”するまでが一連の流れである。
飛ぶ鳥、跡を濁さず。感謝の気持ちを込め、つぎに入居するひとの幸せも願い、空っぽになった部屋を掃除した。
振り返れば、物件購入に向かい動き始めるまでは、ここが最高の場所だった。
狭くても、暗くても、湿気が抜けなくても、住人が幸福であれば素晴らしい場所になることを教えてくれた。
「住まい」とはまさしく「住まう」ことからはじまるのだ。これは新しい住居においても第一に心がけていきたい。
立ち会いの日。電気も水道も止まった部屋で、窓から差し込むわずかな光を頼りに隅々を確認していると、やはり初心にかえったような心持ちになった。
これを明るく感じさせてきたのは、妻鹿の心。大事なものは目に見えない。このさき、どんなことがあっても俯かずに未来さえ見つめていれば、人生の景色が“色”を失うことはないだろう。
住んだ期間だけでなく、将来分の「ありがとう」を言って、カギを返した。
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