妻鹿日記(92)スクリーン1枚の奇跡
202006/11
妻しか(鹿)日記
登場人物: 妻…妻 私…鹿
第92回:妻しか観ない
* * *
再開した映画館にもさっそく足を運んできた。作品は妻の希望で『地獄の黙示録』。乙な選択である。
狂気じみた爆撃、炎、深い苦悩、闇の奥で揺らめく光と影、それらと官能的に響きあうドアーズの音楽……。
これぞ映画だ! 映画これ体感! 劇場バンザイ!
……たが、一席ごとにテープがはられた座席には、観客は数名。身をもって「映画の危機」も感じた。
よくいわれることだが、劇場という空間自体が現実の“避難所”として機能している側面があるなら、隠れ家を失った人々はいったいどこに逃げ込むのだろう?
劇中、「家」を吹き飛ばされた人々のように「絶命」してしまうケースもあるのではないか。
これは人間の危機でもあるのだ。
今回われわれはスクリーンをとおして数々の破滅を目撃したわけだが、すべての混乱を画が引き受けることで、この“取り扱い注意”な現実は手に触れられる温度まで下がった。
現実とその向こう側、たった一枚の隔たりのおかげで、現実は苦しくも守られている。
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