妻鹿日記(81)ドンの教え
202005/07
妻しか(鹿)日記
登場人物: 私…鹿
特別出演:アル・パチーノ
第81回:鹿のぼやき その9
* * *
遠出をしないゴールデンウィークというのも楽しかった。
いつもの散歩道、よく行く公園、そして、名作をふり返るおうち映画。
どれもその日ごとの感動を与えてくれる。
“どこかに出かけなくてはいけない”というのは、一種の強迫観念だったようだ。
この「なにかをしなくては」という感覚は、連休を超え、つまるところ人生全体にわたりとりついているオブセッションではないか。
就活、婚活、終活……生きる時間は往々にしてなにかのための「手段」に費やされる。
夢や目標はもちろん大事だが、それが無為の時間を許さない偏狭な考えになってはいけない。
毎日はおなじような日々の繰り返しかもしれないが、一方で奇跡的に均衡が保たれている時間でもあり、その積み重ねで成り立つ日常は特別なものだったと、このコロナ禍で気づいたひとは多いだろう。
鹿は夢の実現や目標の達成度合いにかかわらず、最期の時に“妻とあそこに行った、ここに行った”という日常のかけらがたくさんあれば十分である。
それは連休中に妻と観た『ゴッドファーザー』3部作で強く思った。
もっと大きく、もっと強くと、ありとあらゆる犠牲を払って地位を確立したマイケル(アル・パチーノ)が晩年に夢みたのは、若きころに妻のケイ(ダイアン・キートン)と踊ったなんでもない時間だった。
彼が文字どおり命をかけて求めたものは、最初から、その両腕のなかにあった。
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