妻鹿日記(49)炎の鹿

202001/27
Category : Notes妻鹿日記 Tag :

妻しか(鹿)日記

登場人物:私…鹿 妻…妻

友情出演:ゴッホ

挿し絵:妻

第49回:妻しか描けない その1

* * *

妻と川越スカラ座に行ってきた。

1905年に寄席としてスタート

劇場内には、過去の名作ポスターや名だたる映画人のサインなどが掲示されているが、それらは映画ファンが固執する歴史というよりも、長い時間をかけてこの劇場が目にしてきた“事実”の積み重ねなのだと自然に感じられる。

そんな空間で観るにふさわしい映画を鑑賞した。芸術に人生をかけた画家・ゴッホを描いた『永遠の門』である。

(C)Walk Home Productions LLC 2018

ゴッホほど多く見られ、語られ、しかしだれもその生き様を真似できないでいる存在もめずらしい。

みんな彼の絵が好きだという。オークションではいつも高値がつく。でも彼が追求したものを、自分では求めようとしない。太陽の光は、いまでも万人に降り注いでいるのに。

鹿は考えてしまった。売れたい、売れたいと日々口にして生きているが、金を得るためだけだったら他にいくらでも手段はある。

たとえば映画を作ることも、映画について書くことも、需要が少ないわりには多大な労力がかかる。それでもあえて表現するのは、自分にとって大事なものがその過程にあるからだろう。

だから、あー売れたい、という口癖は、字義通りの意味でないことは明らかである。まず自分なりの価値がそこにあって、ゴッホが弟やゴーギャンに頼ったように、認めてもらいたい人にだけ認めてもらえれば十分なはずである。

ゴッホは孤高の“炎の人”であるまえに、だれかを頼れる弱さをきちんともった人なんだなあ。

隣から鼻をすする音が聞こえてきた。妻は最後になってぼろぼろと泣きはじめた。ゴッホが小さな棺に入って、自分の描いた花の絵にかこまれながら、安らかに眠っている。

妻「ずびずび……鹿先生は、売れるといいね」

そして、映画にインスパイアされた絵を1枚、妻は出してきた。

本音を言わされる先生

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