妻鹿日記(39)火垂るの妻
妻しか(鹿)日記
登場人物:私…鹿 妻…妻
第39回:妻しか得られない その2
* * *
ピピピッという電子音で目が覚めた。薄闇のなかで妻が背を丸めて座っている。
手にした棒状のものを見つめ固まっていた妻は、再び、布団をかぶりはじめた。
「いやいやいや、なかったことにしないで! 何℃あるの?」と思わずツッコミを入れる鹿。
!
それは高熱だった。病院探しスタート!
三が日に開いているクリニックなどないとわかっていたので、都の福祉保健局が運営している医療案内サービスに電話をかけてみた。
しかし、これがなかなかつながらない。みんな体調を崩しすぎたよ! と妻以外の存在に憤る鹿。
何十回目のコールでようやく自動音声につながり、受診を希望する科を言うように指示される。
鹿「内科!」
AI「ナ・イ・カですね。つぎに郵便番号を入れてください。」
鹿「えっ、番号、えっと」
AI「認識できませんでした。コールセンターにおつなぎします」
鹿「えっ、まってよ、はやいよ展開が。心の準備が」
AI「ただいま混みあっており、このままお待ちいただくか…」
鹿「結局つながらないんかい!」
といったやり取りを一度したあと、今度は郵便番号を控えて電話をすると、自動音声が近くの病院を伝えはじめた。
AI「●●診療所。住所は〇〇区〇〇マイナス○○マイナス」
鹿「えっ、ちょまてよ、マイナスってなんだよ、あ、住所の“-”のこと!?」
AI「▲▲附属病院。住所は…」
鹿「もうつぎ!? ちょま」
AI「■■医院。住所は…」
鹿「(戦意喪失)」
FAXでも送ってくれるそうなのだが、うちにはない。持たぬ者には、このようにリスニングの試験が行なわれる。
鹿は自宅からいちばん近い病院だけ記し、ネットで調べた。すると「事前に電話」と書いてある。
!(嫌な予感)
プルルルル、プルルルル、ツーツーツー…
鹿「ツマ―!! いまみつけたんだけどね、つながらなくてね」
妻「(;´・ω・) サクマドロップス」
鹿「節子―!!!」
鹿は急いで何十回もかけ直した。そして、ついにそのときがきた。
病院「どうしました」
鹿「妻が熱を出しまして…」
人の声を聞いて、これほど安心するとは。ここまで、へんなのばかりと相手してきたから。
病院「ではお名前を」
鹿「悠介です」
病院「……奥様のほう」
鹿「(/ω\)」
予約をして、妻に着替えてもらって、すぐに家をでた。
妻「鹿…」
鹿「どうしたの」
妻「寝癖がすごい」
AIと格闘してたからね!!! さあさ、病院に行こう!
!
検査の結果。インフルエンザ。やっぱり行ってよかった。
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