妻鹿日記(36)ノルウェイの鹿
201912/25
妻しか(鹿)日記
登場人物:私…鹿
第36回:鹿しかいない日 その3
* * *
今年も映画を深掘りするにあたり、村上春樹の小説を取りあげることが少なくなかった。
妻からは「またハルキ~」と言われるが、特に好きなわけではない。やれやれ。
世間から距離をおき、自己の内面世界を掘り下げることで他者とのつながりを回復しようとする登場人物たちの姿が、いまの作品セカイに影響を与えているがゆえ、引き合いに出している。
その小説の主人公は、妻が仕事をしているか失踪したかして“専業主夫”になった「僕」が、昼間にパスタを茹でながらビール片手にクラシックを聴き流している、というイメージがある。(このライフスタイル、ポップカルチャーとの親和性も、現代のサブカルに受け継がれているといえよう。)
鹿はそんな「僕」に対して決して好意的ではなかったが、“妻より後に家を出て、妻より先に帰ってくる”という日々を繰りかえしているうちに、その気分がなんとなくわかってきた。
洗濯物を取りこんだり、掃除をしたりして待つ時間。悪くない。
また鹿は妻より休日も多く、最近は本当に働いているのかと疑われいるが(妻の想像では鹿の職場は公園になっている)、たしかに日中家事らしきことをして過ごすのは嫌じゃない。
むしろそこに「僕」の生きる整った小宇宙を感じはじめているかもしれない。これは本格的にハルキワールドに突入か……!?
いや無理だ。調子に乗ってはいけない。なんといっても鹿は料理が作れない。そんな主夫は必要とされない。
「僕」の日常から“料理”をなくしたら、こうなる。
──昼間にビール片手にクラシックを聴き流している男。
これではただの失業状態だ。それも破滅していくやつのほうだ。
だからきょうも猫のように妻の帰りを待つ🐈
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