妻鹿日記(23)日常
201910/23
妻しか(鹿)日記
登場人物:妻…妻 私…鹿
第23回:妻しか撮れない
* * *
ムサコでの暮らしも落ちついてきた。
おなじ略称のせいか、水害に見舞われている武蔵小杉を心配し、連絡をくださった方がいた。
こちらは多摩川に接していない武蔵小山のほうで、とくに被害はなく、有名なアーケードの天井も台風で飛ぶことはなかった。
日々の立ち寄り所である銭湯、BOOKOFF、TSUTAYAという黄金のトライアングルがいまや築き上げられ、引っ越す前と変わらぬ状況になったという意味では、引っ越しは終わったようだ。
しかし自分でも思うが、このトライアングルでいいのか、という問題はある。
妻が入る余地がない。
すまない。
というわけで、日常につぎのアクションを起こすことにした。
結婚写真を撮るのだ!
それでまず、写真スタジオに相談にいってきた。
妻も鹿も儀式的なものには興味がなく、なにかの儀式が行われたさきの祝日も家で『バットマン』を観ていたが、撮影の説明を聞いているうちに自分たちや家族のために非日常を演出するのはいいものだな、と思えてきた。
家族という小さな集団を維持するためにも「ハレとケ」は必要なのかもしれない。あるいは、しがない日常を明日に向かい生きていくためにも。
聞くと「セレモニー風写真」というのがあるようで、式の流れを再現して画におさめるプランもあるとのこと。
式を本番とすれば通し稽古みたなものだが、鹿のほうから父と母に与えられるハレの日は、それくらいしかない。
その日の記憶を頼りに、1日でも長く生きてもらえるならば、写真の1枚でも撮っておくべきだろう。
[…] 結婚写真を撮るために、妻と試着に出向く週末。 […]