甲子園によせて/なにに感動を求めるべきか
趣味のサウナに入っていた。ワイドショーばかりを流す室内のTVは嫌いだが、この時期はどこも甲子園を映してくれるので、ついつい長居してしまう。
観ていたのは星稜(石川)と済美(愛媛)の試合。前者は言うまでもなく松井秀喜選手の母校。1979年の「箕島対星稜延長18回」の死闘も有名だ。
星陵が6点差でリードしていたため、圧勝かなと画面を見つめていたら、8回裏、試合が動きだす。
済美がタイムリー、タイムリー、押し出し死球と徐々に追い上げていく。「これは見逃せん」と、大量の汗を我慢しつつ見入っていると、レフトに大飛球が。
逆転3ラン。サウナ内にいた十数人のおじさんたちと「あー」と声を漏らし、謎の一体感を得る。
「なにが起きるかわかりませんねー」
「まったく」
水風呂に浸かって9回の表、済美の締めくくりを見ようと再び室内に入ると、ここからが“熱い”ドラマのはじまりだった…。
8点を奪い返した済美、なんと同点に追いつかれて延長戦へ。おじさんたちもそろって水分補給に。
10回、11回、12回と今度は全然試合が決まらず、球児よろしくだんだんと手足がしびれてくる。脱落していくおじさんもちらほら…。
自分は水風呂と往復しながら試合の行方を追っていた。
タイブレークの延長13回。星陵は2点を入れて、もう決まっただろうと、サウナを出るおじさんが何人かいた。
自分は「これは来る…きっと来る」と“野球神の声”を聞き(ただもうろうとしていただけかもしれないが)、氷を体に擦りこみ、13回裏のサウナにまた挑む。
満塁。ファウルがつづいた第6球。足元に落ちるスライダーを振り抜いた白球は、なんと、ライトポールを直撃した。サヨナラ逆転満塁ホームラン。
「あー!!」
と今度はおじさんたちと大声をあげ、手を取りあって感動を分かちあった。われわれも、死闘を制したのだ。
ふらつく足で水風呂にドボーン。思った以上にダメージが大きく、大量の水を飲んで頭痛を鎮めたが、ギブアップ。風呂を後にし横になっている。
それで、つらつらと思うのだが、今大会は足をひきずる選手が続出している。けいれんは熱中症の前兆だ。
きょうはとてつもなく大きな感動をもらったが、高校生の体を犠牲にしてまで、素直に喜んでいいものか。
闘技場での死闘を手を叩いて見物していた古代ローマ市民の「パンとサーカス」となにが違うのか。
やはり危険と隣りあわせの状況から生まれる「ドラマ」は、どちらに転ぶかわからない「アクシデント」と呼ぶべきである。
人間は感動を必要とする。それは確かだ。そこで芸術・芸能の出番となる。
先日、甲子園によせて書いたコラムをここに載せたい。(映画サイト「シネマルシェ」で連載中。)
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[…] 下町にほど近いスーパー銭湯に行ってみた。サウナは数少ない趣味のひとつである。 […]