山陰礼讃⑧「東京にて」
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【Day5-2 出雲 → 羽田】
山陰線のすばらしさを讃えながらも、文明の利器である飛行機に乗って帰った私は(行き先が“成田”ではないか何度も確認)、その変わり身の早さから連休明けの切り替えというものにも苦労しなさそうだ。
「出雲縁結び空港」から飛び立つこと1時間、上空の雨、風、気温に耐えうるその糸の強度を計算しているうちに羽田に着いてしまった。ばかばかしいほどに飛行機は速い。この5日間が60分。一方で、これからも目的と目的のあいだをつなぐ手段を楽しめる人間でありたいと、自らを戒めた。
松江にふる雨とは違い、都内をぬらすそれはサイバーパンク的な印象をつよく与える。5日間死んでいたSuicaがピッと音を鳴らしたときはちょっとうれしかったが、そんなささいな音によろこびを見いだす耳は人混みですぐにダメになる。旅を終えていま一度、なぜ自分がここに住みつづけているのかを自問中。
自分に興味があるものだけを挙げれば、たとえば大型書店の存在? いやいや、おおくは新刊と売れ筋しか置いてなく、求める本はいつもネットで注文している。BOOKOFFの存在? 鳥取にもあった。銭湯&サウナ? 山陰にはほんものの温泉がある。私の趣味は、ことごとく“地方”に打ち負かされてゆく…。
しかし唯一、これは都内、というものがある。映画館だ。もちろん全国各地にあるショッピングモール内のそれではなく、単館系やミニシアターの存在を指す。ロードショー公開を目指す映画の封切りはだいたいが人口の多い都市部からはじまる。こればっかりは、鳥取にはなかった。また名画座の数や特集上映の機会の多さも重要な要素だ。
ではそんなに急がずに、映画がその土地にやってくるのを待てばいいという考えもあるだろう。なるほど、たしかにそれで鑑賞できればいいのだが……。実際に、東舞鶴では写真のような劇場を見つけて飛びあがった。大変恥ずかしながらそれまでは知らず、開館80周年の有名な老舗らしい。
いつか移住もいいかなと決心しかけたところ、上映中の作品をみてためらった。コナン、しんちゃん、ドラえもん、リメンバー・ミーに北の桜守。別にアニメがあってもまったく構わず、コナン以外のアニメ3本はすでに観ている。(『北の桜守』も鑑賞済み。)ただ、3スクリーンをけっこうな割合で占めてしまうのはちょっと悩んでしまう。大型連休の需要にこたえる必要性はわかりつつも、「劇場で(街で)映画を選んでみる」という習慣が身についてしまっている自分にとっては、その姿勢を変えるのはなかなか難しそうだ。
映画と、温泉と、BOOKOFFがある町、求む。
「山陰礼讃」ℱin
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