【連載コラム35】映画『21世紀の女の子』あとがき
いつもは即、本棚行きの「早稲田学報」。(申し訳ない。しかし読む時間があまりない。)“校友”として半ば強制的に隔月で送られてくる雑誌だ。

しかし今回の2019年4月号の表紙をみて、おや、と思う。
田中愛治総長の姿ではなく、左下に刻まれた“WASEDA MODE”という文字に。
バンカラが売りの早稲田が、ファッションの特集を組むとは。
その意外性にひきつけられ、ページをめくってみると「神田恵介」と大きく打たれている。
えっ! 「ケイスケカンダ」ってOBなの!?
そのブランドはついこの前、映画『21世紀の女の子』をコラムで紹介する際に触れたばかりだ。

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神田氏は枝優花監督が撮った「恋愛乾燥剤」の衣装を制作している。

(C)2019「21世紀の女の子」製作委員会
映画パンフには“女の子の夢や憧れを、デザイナー神田恵介のフィルターを通して服で伝えるこのブランドならではの、劇中でのある変化に注目!”とある。
改めて、卒業生なのか! プロフィール欄を読むと2000年に社会科学部を卒業している。
ファッションは自分にとっても縁遠いけれども、一気に親近感がわく。
記事を読みはじめると、やはり、こう書かれている。
“ファッション業界に進んだ校友の、パイオニア的な存在である「keisuke kanda」デザイナーの神田恵介さん。”
パイオニアということは、他にはどなたが?
「アンリアレイジ」の森永邦彦さんや、「クードス」の工藤司さんがいた。
『21世紀の女の子』では、それぞれ夏都愛未監督の「珊瑚樹」と松本花奈監督の「愛はどこにも消えない」の衣装ブランドに選ばれている。

(C)2019「21世紀の女の子」製作委員会

(C)2019「21世紀の女の子」製作委員会
みんな先輩だったのか。しかも、3人とも社学! 社学になにが!?
神田恵介さんが“校友のパイオニア”というのは、そういうつながりも意味するのだろう。
その神田さんの記事をしっかり読みこんでみると、“ファッションに興味を持ったのは早稲田に入学してからです”と語られており、つぎのような発言もあった。
“核になっているのは、「パンクスピリット」と神田さんは言う。”
“デザインをする上でも、生きる上でも、反骨精神を根底に隠し持っていたい。人は満たされないものがあるから、その穴を埋めるために表現をしたり、物を作ったりするのではないでしょうか。”
納得。大納得。「反骨精神」はぼくの好きなコムデギャルソン、川久保玲氏のテーマでもある。

『美術手帖』2009年12月号の川久保玲氏のインタビューでは「反骨精神」が掲げられ、「戦うには自由がないと戦えません」と宣言。
それは「どうしようもない不条理。さらにその上にはびこる権威に対しての戦い」であり、「自由と反骨精神が私のエネルギー源なのです」と語っている。

一方で『Pen』2012年2月号の「コム・デ・ギャルソン特集」では、川久保氏は一番大切なものを聞かれて「仕事」と答えている。
「クリエイションとビジネスは別のものではなく、同じひとつのもの。自分がつくったものに最後まで責任を持つことは、ビジネスにも責任を持つということ」だと述べる。
神田恵介氏はそれを“パンクスピリット”と表現しているが、表現でも物づくりでも人生でも、なにかを“デザインする”ことの原動力はきっと“パンク”なんだ。
折しも3月20日、革新性や東洋と西洋の文化交流に貢献している芸術家を称える「イサム・ノグチ賞」が、川久保氏に贈られた。ファッションデザイナーの受賞は初めてだという。
“授賞理由で「衣服に対する既成概念を打ち砕いた」と評された川久保さんは「これからもさらに戦い続けます」とコメント。”
毎日新聞2019年3月20日 http://mainichi.jp/articles/20190320/k00/00m/040/161000c
まだ戦い続ける。すごいことだ。
ある人は人生が不満足だと嘆くだろう。一方で、人生が満たされないかぎり、戦い続ける人がいる。
ぼくは正直に言って、後者になりたい。
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