【連載コラム35】映画『21世紀の女の子』あとがき

201903/23

いつもは即、本棚行きの「早稲田学報」。(申し訳ない。しかし読む時間があまりない。)“校友”として半ば強制的に隔月で送られてくる雑誌だ。

早稲田学報 / 2019年4月号

しかし今回の2019年4月号の表紙をみて、おや、と思う。

田中愛治総長の姿ではなく、左下に刻まれた“WASEDA MODE”という文字に。

バンカラが売りの早稲田が、ファッションの特集を組むとは。

その意外性にひきつけられ、ページをめくってみると「神田恵介」と大きく打たれている。

えっ! 「ケイスケカンダ」ってOBなの!?

そのブランドはついこの前、映画『21世紀の女の子』をコラムで紹介する際に触れたばかりだ。

(C)2019「21世紀の女の子」製作委員会



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神田氏は枝優花監督が撮った「恋愛乾燥剤」の衣装を制作している。

「恋愛乾燥剤」(監督:枝優花)
(C)2019「21世紀の女の子」製作委員会


映画パンフには“女の子の夢や憧れを、デザイナー神田恵介のフィルターを通して服で伝えるこのブランドならではの、劇中でのある変化に注目!”とある。

改めて、卒業生なのか! プロフィール欄を読むと2000年に社会科学部を卒業している。

ファッションは自分にとっても縁遠いけれども、一気に親近感がわく。

記事を読みはじめると、やはり、こう書かれている。

“ファッション業界に進んだ校友の、パイオニア的な存在である「keisuke kanda」デザイナーの神田恵介さん。”

パイオニアということは、他にはどなたが?

アンリアレイジ」の森永邦彦さんや、「クードス」の工藤司さんがいた。

『21世紀の女の子』では、それぞれ夏都愛未監督の「珊瑚樹」と松本花奈監督の「愛はどこにも消えない」の衣装ブランドに選ばれている。

「珊瑚樹」(監督:夏都愛未)
(C)2019「21世紀の女の子」製作委員会
「愛はどこにも消えない」(監督:松本花奈)
(C)2019「21世紀の女の子」製作委員会


みんな先輩だったのか。しかも、3人とも社学! 社学になにが!?

神田恵介さんが“校友のパイオニア”というのは、そういうつながりも意味するのだろう。

その神田さんの記事をしっかり読みこんでみると、“ファッションに興味を持ったのは早稲田に入学してからです”と語られており、つぎのような発言もあった。

“核になっているのは、「パンクスピリット」と神田さんは言う。”

“デザインをする上でも、生きる上でも、反骨精神を根底に隠し持っていたい。人は満たされないものがあるから、その穴を埋めるために表現をしたり、物を作ったりするのではないでしょうか。”


納得。大納得。「反骨精神」はぼくの好きなコムデギャルソン、川久保玲氏のテーマでもある。

「美術手帖」2009年12月号


『美術手帖』2009年12月号の川久保玲氏のインタビューでは「反骨精神」が掲げられ、「戦うには自由がないと戦えません」と宣言。

それは「どうしようもない不条理。さらにその上にはびこる権威に対しての戦い」であり、「自由と反骨精神が私のエネルギー源なのです」と語っている。

「Pen」2012年2/15号


一方で『Pen』2012年2月号の「コム・デ・ギャルソン特集」では、川久保氏は一番大切なものを聞かれて「仕事」と答えている。

クリエイションとビジネスは別のものではなく、同じひとつのもの。自分がつくったものに最後まで責任を持つことは、ビジネスにも責任を持つということ」だと述べる。

神田恵介氏はそれを“パンクスピリット”と表現しているが、表現でも物づくりでも人生でも、なにかを“デザインする”ことの原動力はきっと“パンク”なんだ。

折しも3月20日、革新性や東洋と西洋の文化交流に貢献している芸術家を称える「イサム・ノグチ賞」が、川久保氏に贈られた。ファッションデザイナーの受賞は初めてだという。

“授賞理由で「衣服に対する既成概念を打ち砕いた」と評された川久保さんは「これからもさらに戦い続けます」とコメント。”

毎日新聞2019年3月20日 http://mainichi.jp/articles/20190320/k00/00m/040/161000c


まだ戦い続ける。すごいことだ。

ある人は人生が不満足だと嘆くだろう。一方で、人生が満たされないかぎり、戦い続ける人がいる。

ぼくは正直に言って、後者になりたい。

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