アイファ・オング『《アジア》、例外としての新自由主義』の紹介

201308/15
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【本の紹介】

 作品社よりアイファ・オング初の邦訳書『《アジア》、例外としての新自由主義』が発売されています。
http://www.sakuhinsha.com/politics/24449.html

 

アイファ・オング『《アジア》、例外としての新自由主義』1

 

 著者はアジア太平洋地域の政治・科学技術・文化を論じ、「グローバル化の文化人類学」のテクスト群を精力的に発表している文化人類学者です。恥ずかしながらぼくはこの度の邦訳化によってはじめて彼女の存在を知りました。(編集者、翻訳者の方々のご尽力に感謝いたします。)

 

 本書は非西洋の文脈における新自由主義の積極的かつ介入主義的な側面に注目し、「例外としての新自由主義」(人口管理や特定の空間管理のために市場主導の予測計算が導入される場)と「新自由主義からの例外化」(市民の生活保護を保持する一方で、市民ではないものを資本主義の発展にともなう利益から排除すること)という重なり合う“例外状態”の二局面をダイナミックに追っています。

 

 これはシュミット(仲正昌樹先生『カール・シュミット入門講義』がおすすめです)やアガンベンの説く「例外状況」をより広く概念化する試みともいえます。

 

例外状況としての新自由主義と新自由主義からの例外化のあいだのつがい関係、統治テクノロジーと規律テクノロジー、包摂と排除のテクノロジー、人間の行いに対して価値を与えたり否定したりするテクノロジーのあいだの相互作用を探究する必要がある。p.21

 

 この現象は中国を中心とする東アジア諸国の“発展”の軌跡からよく垣間見られる動きだと思います。その「アジア」に注目し、新自由主義の矛盾に満ちた「例外化の運動」を浮き彫りにしていく筆致は見事で、しかもアクロバティックでさえあります。

 

 広く括ればポストコロニアルな議論として読めますが、イスラームの女性をめぐるジェンター的な話題あり、グローバル華人の話題あり、グローバル空間における高等教育の話題あり、シリコンバレーの労働裁定取引の話題あり、そして最後のほうにはバロックな生態系(いわゆる複雑系)という生物学的な話題にも発展し、各々の関心から入れる書物です。難しいと感じる箇所は随所にありますが、このように話題が多岐に渡るため飽きさせません。

 

 そして今、まさにTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)で揺れる日本(アジア諸国)にとっては、自国の展望を把握するのにもってこいの一冊でしょう。

 

アイファ・オング『《アジア》、例外としての新自由主義』2

 

 ぼくは本書の「編集協力」として名前を載せていただきました。この時代に必要な言葉の制作過程に関われて幸いです。自分たちの未来のため、ひとりでも多くの人々にこの本が届くことを祈っています。

 

アイファ・オング『《アジア》、例外としての新自由主義』3

 

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