シカ噺

カメレオンの生態についての寓話

201703/23

   ペットショップの片隅に、一匹のカメレオンがいた。自他共に認める恥ずかしがり屋で、人の顔色をうかがっては体色を変えて波風立てずに過ごしてきた。左右別個に動く目でいつも必死に追うのは店主の姿であったが、どんな事情か三日三晩コオロ…

短編小説4『ユウスケとユウカの福音』

201408/03

   首相官邸前で数万人もの人々が「原発反対! 原発反対!」と声を上げている。ユウスケはその最前線でシュプレヒコールを唱えていた。    2011年3月11日、東日本に大震災が襲いかかった。ユウスケは大学の春休みで、母と…

短編小説3『ナオさん』

201407/26

   「ノリ、帰ってきただか」とナオさんは小走りで駆けつけ息子を抱いた。「大きくなっただなあ。すぐご飯の支度するからな、父ちゃんにも顔出しておいで。」マツスケは庭の畑で土いじりをしていた。「父ちゃん。」ノリヒコは丸まった背中に語り…

短編小説2『引退試合』

201407/17

   主審の合図で本戦がはじまった。体重100kgを越える巨漢が身をぶつけて押し寄せてくる。こうやって力任せに相手をなぎ倒しトーナメントの決勝まで進んできたのだ。ノリヒコはコーナーまで後退しつつも四肢を柳のようにしならせて攻撃をさ…

短編小説1『少年時代の妹』

201407/11

   物心ついたときからりーちゃんはそばにいた。歩けばひょこひょこと後ろをついてきて、座れば左右のどちらかにりーちゃんはいた。ささいなことでよく泣かせてしまった。叔母さんはしゃがんで聞く。「じゃあもう帰る?」りーちゃんは髪を揺らし…