第29回 映画『プールサイドマン』を観て

201710/01

 

映画『プールサイドマン』を鑑賞した。昨年の東京国際映画祭で日本映画スプラッシュ作品賞を受賞、各所で話題になっていた作品だ。

 

内容は一言でいうとプールの監視員の日常を追う。主人公は一言も喋らないが、これほどまでに音が重要な作品はない。世界は不気味なほどに雄弁で、それを狂気と呼ぶ向きもあるだろう。そしてミニマリズム(差異と反復)や地方の風景(モータリゼーション)がその現実をいっそう歪ませる。ラストに現れるとある“祝祭空間”は痛烈なアイロニーと見るべきだと思う。

 

僕も監督と同じ北関東出身なので、車窓を繰り返し流れる道路沿いの看板(ベイシアだったり、WonderGOOだったり)の与える意味が痛いほどによくわかる。言葉を発しない主人公の傍らで、監督自身が演じる饒舌なキャラがいるのだが、彼から読み取れる思考や行動はギャグ要素はあるものの日常の重いリアリティが感じられる。名演。

 

渡辺紘文監督の役者としての存在感は、師と仰ぐ天願大介監督の作品(『赤の女王』など)における怪演からも示されていたが、『プールサイドマン』はまさに面目躍如の働きぶり。随所で笑いが起きていた。張り詰めた画が緩むときの間がまた素晴らしい。

 

誰もが僕のように「これはすごい体験をしたぞ」と劇場の外に出られるかはわからない。でもそれは世評が高い作品にはつきものだし、感動の強さは抱えている問題意識の差にもよる。だからこそ、自分の感度を試すためにも一度この映画を観ることをお勧めしたい。描かれた現実を我が事と思うだろうか、それとも絵空事と一笑に付すだろうか。

 

▼劇場サイト(新宿武蔵野館での上映は2017年10月13日まで)
http://shinjuku.musashino-k.jp/movies/3616/